2012年10月17日水曜日

Dearest Stradivarius

今までの人生でとてもミステリアスな仕事に関わった2年間がある。
そこは、羊の腸(ガット)を馬の尾っぽで擦って奏でる楽器を製造販売する工房・・・なんだか不気味な商売のようだが、その楽器とは ”ヴァイオリン”。
私はご縁があってヴァイオリンを扱う会社で少し仕事をしていた。

ヴァイオリンは16世紀後半に北イタリアで誕生したのだけれど、今の今まで何一つ形が変わっていない。カタツムリのような頭に長くスマートな首、グラマラスな胴体に「f」の刺青(!)を持つヴァイオリンは、完璧に近い造形でこの世に現れたのだそう。
そのヴァイオリンの中でも最高峰に君臨する名器 ”ストラディヴァリウス”を患者とするヴァイオリンドクターがその会社を経営していた。
彼は、現代でも鑑定が難しくミステリアスな存在であるストラディヴァリウスを幾つも鑑定・修復してきた。まさにゴールデンアイとゴールデンハンドを持つヴァイオリンのお医者さん。

ストラディヴァリウスは北イタリアのクレモナで1200挺のヴァイオリンを製作し現在600挺が確認されているというが、私は都内のその会社の小さな工房でそのうちの数挺のストラディヴァリウスと遭遇した。300年も生き延びてきたこれらを前にすると、なんだか不思議な圧迫感と神聖な空気を感じた。

Dr.はどうやって本物と偽物を鑑定してきたのかを尋ねると「本物は目の前に現れたときになんともいい難い強力な圧力を感じる」という。彼もまた神がかりな感を持つ特殊な"遣い"なのかもしれない。。

そんなDr.は、かつてストラディヴァリウスが製作活動の拠点にしていたイタリア・クレモナにも工房をもつ。私がコーヒーを生業にしたいことを知っているDr.が、ある時私に「クレモナの街のとあるBar(バール)にもの凄く素敵なコーヒーマシンがある。とても古いマシンなんだけどちゃんと動く。凄くいいんだよ。」と、目をキラキラさせながら話してくれた。
クレモナのヴァイオリン職人達が束の間の休憩に、小指を立てて飲む一杯のコーヒーを淹れる「マシン」。

私は今、このマシンに会いに遠いクレモナに行きたくてしかたがない。。


2012年10月6日土曜日

機能美

与えられた役割を果たす為に装飾の一切を排除し、これ以上何も引けない状態にまで形態構造を突き詰めた結果、自然に現れる美しさ。
ものの中に「機能美」を見つけたとき、僕は震えがくるほど心を揺さぶられる。構成するパーツに役割がないものが存在しない。ひとつひとつの存在に意味がある。
例えば動物や昆虫をじっと眺めているうち、その形状の必然に気付くことがある。
役割が視覚に現れている。
予期せずそれを見つけたとき、世界で最も会いたかった人との邂逅にも似た喜びを感じる。

“デザイン”の語源は“デッサン”と同じ“計画を記号に表す”という意味のラテン語“designare”からきているという。
そう言う意味ではこの世に存在する全ては大なり小なりなにかの役割を担うものであり、それは神が予め計画し、形に表した記号と言えるのかもしれない。
神が作ったこの世に、BROWN'Sという新しいブランドを送り出そうとする今、それを体現するデザインを考えるにあたって僕らが常に気持ちの真ん中に置いていることがある。
BROWN'Sの存在理由からその形である必然性があるか、否かである。
我々に与えられた役割を果たすため熟考に熟考を重ねた結果到達するもの。
そのひとつが「機能美」だと思っている